愛知県図書館で借りてきた「もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品」

もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品 (ABCアート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたい伊藤若冲―生涯と作品 (ABCアート・ビギナーズ・コレクション)

土曜日に愛知県図書館で借りてきた
今日の夕食後読んでいたら、気になる記述を発見した

明治以前の多くの両家同様、若冲も複数の弟子を動員して工房制作を行なった。特に晩年の水墨画では、若冲の印がありながら実際には弟子が描いたらしいものを技術的に区別することが
できるが(73ぺージ参照)、ここではいわゆる〈枡目描き〉の技法の作品を対象に、「白象群獣図」(57ページ)と「樹花鳥獣図屏風」(静岡県立美術館蔵)を比較してみよう。
 「白象群獣図」のていねいな彩色と較べると、「樹花鳥獣図屏風」には粗さが目立つ。まず、方眼の巾にきちんと大小二種類の正方形が描かれていなくて、場所によっては円形に近づいてしまう。次に、たとえば両方の作品に共通して描かれる熊を較べてみるといい。前者が口元や腹の白っぽい部分を灰色のぼかしによって、体毛の黒い部分と連続的に表現しているのに対して、後者は口元を水色、腹を白で、枡目の直線に沿って明確に塗り分けている。前者の方が微妙な技術を要し、後者は機械的に処理できる賦彩の方法である。これらの相違から、前者は若沖自身が彩色までを行ない、後者は若沖の下絵をもとに弟子たちが彩色をしたと考えられる。
 静岡県立美術館の屏風は、動植物が若沖らしい形を持っているので、下絵だけは若沖が手がけたと思わせるが、類似の技法の「鳥獣花木図屏風」(プライス・コレクション)は違う。プライス夫妻の収集品には重要な若沖画がいくつもあるが、あの屏凧絵は絶対に若沖その人の作ではない。若沖の描く緊張感に富んだ形態はまったくなく、すべてはゆるみきって凡庸である。静岡の屏風の配色が自然らしさに配慮したものであるのに対して、プライス氏の屏風の配色は平板で抽象的な模様を作るだけに終わっている。工房作というにはあまりにも若沖画との落差が大きいので、稚拙な模倣作というべきだろう。 P58〜59より引用

もともと、私は〈枡目描き〉については関心がなかったのだが、あの巷を騒がせたプライスコレクションをこのように指摘しているのは興味深い。