天地人 第六回

陣中での私闘〜謙信との問答

今日の展開は随分とつまらなかった
原作はどうだったのかと気になって、久しぶりに取り出してみると
なぜか付箋のついた箇所が今日の「謙信との問答」だ

まず、兼続一人だけが、私闘ののち謙信に呼び出される
ここで、きょうのTV同様に「京で眺める月」の話が出てくる
「清水の山荘から眺める月は、ことのほか美しい」とか
「都では吹く風、木々におよぶまで、越後のそれとはまるで異なっている」
「どのように異なるのでございますか」と兼続が聞けば
「風韻があるのだ」
「風韻・・・・」
「文化の厚み、とでも申せばよいのか。平安の昔から営々と積み重ねられてきた、いにしえびとのやさしさが、かの地では森羅万象のすべてに宿っておる」

こんな会話の後

「信長に代わり、天下をお屋形さまがつかみ取るののでございますな」
背筋を駈けのぼる興奮に、兼続の身の内は震えた。
が、謙信は、
「天下・・・・何のことだ」
兼続を振り返り、意外そうな顔をした。
「京に旗を立てる信長を倒すということは、すなわち、お屋形さまが天下さまになるということではございませぬか」
「待て」
と、謙信が兼続の言葉をさえぎった。
「そなたは何か、思いちがいをしておるようだ」
「と、申されますと?」
「わしが信長と戦うのは、義をおこなうためだ。ほかに意図はない」
「義………」
「鞆ノ浦におわす将軍を京にお迎えし、足利幕府を再興するのがわが義である。役目が終われば、ふたたび越後にもどるまで」
「お屋形さまッ」
日頃のつつしみも忘れ、兼続は思わず声を高くしていた。
「義とは何でございます」
「異なことを聞く」
謙信は兼続を見つめた。
「義とは、人が人であるための心得だ。義なくば、人はただ欲にまみれ、野の禽獣と変わらなくなるだろう」
「信長をはじめ、世の群雄たちは、みな天下をとることをめざして戦っております。天下人となり、民を安じる治国をおこなうのも、また義ではございませぬか」
兼続は叫ぶように言った

こんな素敵な問答がカットされているのはいささか納得できない

じつは以前にも引用をしているのだが、このあたりの「義」についての考え方は
この物語の骨格をなすもののように思えるのだが・・・・

その後も原作では延々と「義について」の議論が続くP95〜P100)(全部うつ時間がとてもないが)
そして、私闘への処分を申し渡した後に

「先に刀を抜いたのは、そなただな」
「はい」
「三郎(景虎→原作では家来だけでなく彼も登場する)に対し、刀を向けたのも事実か」
「はい」
「たわけ者めがッ」
謙信が低く吐き捨て、眉間に皺を刻んだ。→(ちなみにドラマでは今日の最終場面で景勝が吐き捨てた)
「もっとわが身を大事にせよ、与六」
謙信が言った
「わしが処分を申し渡す前に、なぜそなたに酒を与え、おのが心を語ったか、そのわけがわかるか」
「わたくしは………」
「よいか、与六。わしは、わが義の心を真に受け継ぐ者があるとすれば、それは養子の景勝でも、景虎でもない、そなたしかおらぬとと思っている」
「恐れ多いお言葉」
兼続は恐懼した。だが、謙信は淡々と、
「これは、わしの正直な気持ちだ。家は血によって受け継がれるものだが、心は師から弟子へと受け継がれる。わしは、自分が今日までつちかってきた知恵を、生あるうちに、そなたにすべて伝えておきたい」
「お屋形さままだこれから、天下に乗り出していかなければならぬおん身ではございませぬか」
「人の命などは、いつどうなるものか、明日のことさえ見定めがたい。なればこそ、そなたの軽忽なふるまいが哀しいのだ」
「………」
「故郷の上田庄になりと引き籠もり、雪の中でもう一度、おのれを見つめ直してみよ」
「お屋形さまのおそばを、離れねばならぬのですか」
「おのが身からでた錆だ………………」
中略
「泣くでない」
「は………」
「泣けば、せっかくの今宵の美しい寒月がくもるではないか」
謙信は小姓を呼び、代わりの燗鍋を運ばせた
すすめられるまま、二杯三杯と兼続は馬上杯を干した。酒は、涙で塩辛い味がした。
謙信が朝嵐の琵琶を取り出し、雪の庭に向かって嫋嫋とかなでた。それが、兼続にとって、謙信と飲む最後の酒となった P101〜102より引用

風呂上がりに、BS2で再度今日のラスト場面を見る
予告編で来週にまだ、兼続と謙信の絡みはあるようだ・・・・・・

さて、原作とドラマでは違いが多いことから、
ドラマの脚本を槍玉に挙げるのは簡単だが
よくよく考えると若干17才の若者に後を託し、酒を酌み交わすというのも
原作もなかなか大胆であることをあらためて感じた


ところで、さきほど発見したのだが
NHKのラジオ放送では「天地人」の朗読があるようだ
もちろんわが地方では聴くことができない→新潟・福島・山形だけか?
残念である

http://www.nhk.or.jp/niigata/2009taiga/roudoku.html
すでに、第5章なので、先ほど引用したのは聴くことができない